粒子の沈降でお困りではありませんか?
粒子径の大きな粒子は、粒子同士の凝集を防いでも理論的に必ず沈降する場合があります。
この場合、粒子の凝集を防ぐ方法とは別のアプローチが必要です。
逆に、粒子径の小さな粒子は、凝集しなければ理論的に沈降しない場合があります。
この記事を見れば、液中で粒子を沈降させないために必要な下記知識が身に付きます。
- 粒子が沈降する理由
- 沈降速度(ストークスの式)の基礎知識
- ブラウン運動の基礎知識
- 具体的な5つの沈降対策
沈降するかは①沈降と②ブラウン運動の比較で決まる
液中の粒子は重力による沈降方向の動きと、ブラウン運動による不規則な動きをします。
※「沈降」や「ブラウン運動」の詳細については後述します

「沈降による移動距離」>「ブラウン運動による移動距離」の時、粒子は沈降し、
「沈降による移動距離」<「ブラウン運動による移動距離」の時、粒子は沈降しません。
沈降対策についてのみ知りたい方は「沈降対策」にお進みください。
以下は式を交えた詳しい説明になります。
沈降速度式(ストークスの式)
まずは沈降に関与する力と式についてです。
流体中の粒子は、重力によって沈降方向に動きます。
この時、沈降速度v は下記のストークスの式で表されます。

ポイントは下記です
- 粒子の半径の2乗に比例する(粒子径が2倍になると沈降速度は4倍)
- 粘度が高いと沈降速度は遅い(粘度が2倍になると沈降速度は1/2倍)
- 密度の高い粒子は沈降速度が速い
詳細はブラウン運動の説明後に記述します。
ブラウン運動(アインシュタイン-ストークスの式)
流体中では、流体の分子が常に熱運動しており、流体の分子と粒子が衝突することで、粒子は不規則に運動します。
この「粒子が不規則に運動する」現象を、「ブラウン運動」と呼びます。
沈降速度を表すストークスの式のように、ブラウン運動の速度を直接的に表す式はありませんが、時間tで粒子が移動する距離dは下記式で表されます。

Dは拡散係数と呼ばれ、拡散係数は下記のアインシュタイン・ストークスの式で表されます。

2式をまとめると、ブラウン運動による粒子の移動距離dは下記になります。

ポイントは下記です
- 粒子の半径の平方根に反比例する(粒子径が4倍になっても移動距離は1/2倍)
- 流体の粘度の平方根に反比例する(粘度が4倍になっても移動距離は1/2倍)
沈降とブラウン運動の比較→沈降判断
沈降速度の式(ストークスの式)は単位が[m/s]ですが、1秒[s]あたりについて見ると、移動距離[m]とみなすことができます。
1秒あたりの粒子の移動距離[m]を、沈降とブラウン運動で比較すると下記になります。
![1秒あたりの粒子の移動距離[m]を、沈降とブラウン運動で比較](https://yumasaki.com/wp-content/uploads/2021/04/image-13.png)
定数をXとし、移動に関与する要素のみに注目すると下記になります。
![1秒あたりの粒子の移動距離[m]を、沈降とブラウン運動で簡単に比較](https://yumasaki.com/wp-content/uploads/2021/04/image-16.png)
沈降にもブラウン運動にも関与する要素は、「a :粒子の半径」と「η:粘度」です。
例えば、粒子径や粘度が2倍になると、1秒あたりの沈降距離とブラウン運動による移動距離は下記のようになります。
変更項目 | 沈降距離 | ブラウン運動による移動距離 |
---|---|---|
粒子径2倍 | 4倍 | 0.7倍 |
粘度2倍 | 0.5倍 | 0.7倍 |
粒子径が大きくなると沈降しやすいことが分かります。
粘度が上がると、沈降もブラウン運動も抑えられますが、沈降の方がより抑えられるためブラウン運動が優位になり沈降しにくくなります。
個別の粒子についての沈降判断も、上記2式に実際の値を代入すれば計算できます。
基本は、「沈降による移動距離」>「ブラウン運動による移動距離」の時、粒子は沈降し、
「沈降による移動距離」<「ブラウン運動による移動距離」の時、粒子は沈降しません。
ただし、実際の系では、粒子の凝集が起きることが多く、上記2式の値は「綺麗に分散できた場合沈降するかの判断」という位置づけです。
個別の粒子について、沈降しない粘度が知りたい時などは、上記2式を=で結び、粘度以外の値を代入して解けば、「最低限必要な粘度」を計算できます。
沈降対策(沈降の防止方法)
沈降を防止する具体的な方法について説明します。
基本は、下記式のように、1秒あたりの粒子の移動距離を見たとき、
「沈降による移動距離」<「ブラウン運動による移動距離」であれば沈降しません。
![1秒あたりの粒子の移動距離[m]を、沈降とブラウン運動で簡単に比較](https://yumasaki.com/wp-content/uploads/2021/04/image-16.png)
具体的な沈降対策は下記があります。
- 粒子を変える(粒子径を小さくする等)
- 粒子の凝集を防ぐ
- 液の粘度を高くする
- 保存温度を変える
- 溶剤を変える
粒子径別に有効な沈降対策を考えた場合、目安は下記になります。
1μm以上(ミクロンオーダー):3が有効。2も必要だが比較的容易。
0.1~1μm(サブミクロンオーダー):2と3が有効。
0.1μm以下(ナノオーダー・コロイド領域):2が有効。
1.粒子を変える(粒子径を小さくする等)
粒子に縛りがなければ、小さい粒子を選択することで沈降を防げる場合があります。
1次粒子径と液中の実際の粒子径(分散粒子径)は違いますので、「2.粒子の凝集を防ぐ」ことも重要です。
可能であれば、粒子を破砕するという手もあります。
粒子の種類を変えられるのであれば、密度の低い粒子を使うと沈降はしにくくなります。
2.粒子の凝集を防ぐ
粒子が凝集すると、大きな粒子としてふるまうため、沈降しやすくなります。
特に1次粒子径の小さい粒子は、凝集を解砕するのも、再凝集を防ぐのも難しいため注意が必要です。
粒子の凝集を防ぐ方法については、こちらの記事で解説しているので是非どうぞ▼

3.液の粘度を高くする
増粘剤を添加し粘度を上げることで、沈降を防げる場合があります。
特に、1μm以上の粒子には有効です。
他には、液中の粒子濃度を上げることで粘度を上げる方法もあります。
ただし、粒子濃度を上げると凝集し易くなり、逆効果の場合もあります。
4.保存温度を変える
ブラウン運動は、温度が高い程激しくなるため、温度を上げるべきと考えがちですが、そう単純ではありません。
ブラウン運動が激しくなると、粒子が衝突し凝集する可能性が高くなる場合があります。
さらに、温度が高いと、分散剤が脱着し凝集し易くなる場合があります。
分散液によって様々ですが、温度を下げた方が凝集と沈降を防げる場合が多いです。
温度を下げることで粘度が上がる場合は特に有効です。
5.溶剤を変える
溶剤に縛りがなければ、溶剤を変えることで沈降を防げる場合があります。
粘度や密度の高い溶剤を使うことで、理論的には沈降を防げる可能性が少しだけ高くなります。
実際は、溶剤によって粒子の凝集具合が大きく変わるため、凝集を防ぐという意味で溶剤を変えるのは有効な場合があります。
参考文献
分散について学ぶのに役立つおすすめ本は、こちらの記事で紹介しているので是非どうぞ▼

1)小林敏勝・福井寛「きちんと知りたい粒子表面と分散技術」p.86等、日刊工業新聞社(2014)
2)小林敏勝「きちんと知りたい粒子分散液の作り方・使い方」p.184等、日刊工業新聞社(2016)
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