顔料やフィラーに代表される粒子を、液中に分散させる方法を基礎から学びたくはありませんか?
また、粒子の凝集(例えば沈降やゲル化など)でお困りの方、その原因と対策を理解していますか。
この記事を読めば、【分散の基礎】として、分散の過程を理解し、分散と凝集の基礎知識が身に付きます。
さらに、凝集の状態を知ることで、対策の方向性が定まり、効率的な研究開発ができます。
分散の3過程

粒子は通常、凝集体(2次粒子)として存在しています。
この凝集体を、液中で解砕していき、目的の粒子径(例えば1次粒子径)で安定化させることを「分散」と言います。
1.濡れ

濡れとは「粒子表面の空気を溶剤で置換する工程」です。
「粒子の表面張力」>「溶剤の表面張力」の時、濡れやすく
「粒子の表面張力」<「溶剤の表面張力」の時、濡れにくいです。
例えば、表面張力が高い水に、表面張力の低い有機顔料やカーボンを投入すると中々濡れていきません。
逆に、表面張力の低い有機溶剤に、表面張力の高い無機酸化物を投入するとすぐに濡れます。
有機溶剤系は濡れやすいため「濡れ対策」は必要ない場合が多く、水系は濡れにくいため「濡れ対策」が必要になることが多いです。
2.解砕

解砕とは「凝集体(2次粒子)に力を加え、凝集体を小さくしていく工程」です。
※「機械的解砕」と呼ばれることも多いです
粒子を解砕するために、様々な分散機が使われています。
解砕に関与する力を大別すると「せん断」「衝突」「キャビテーション」があります。
それぞれ、分散機の例を挙げると下記になります。
【せん断】:ディスパー、高圧ホモジナイザー、ハイシアミキサー、プラネタリーミキサー、ロールミル、ニーダー、エクストルーダー(2軸押し出し機等)
【衝突】:ボールミル、ビーズミル、ジェットミル
【キャビテーション】:超音波ホモジナイザー
分散機の選定は、粒子や溶剤の種類、目標とする分散粒径、粘度などを考慮して行います。
分散機の種類と選び方についてはこちらの記事で解説しているので是非どうぞ▼
3.安定化

安定化とは「解砕した粒子が再凝集しないようにする工程」です。
※「分散安定化」と呼ばれることも多いです
安定化していないと、解砕した直後から再凝集するため、解砕だけでは図の一番右の分散状態にはなりません。
そのため、実際の系では、解砕と安定化は同時に進めていきます。
安定化の方法は、分散剤を使用したり、粒子を表面処理したりと様々な方法があります。
粒子と溶剤によっては解砕するだけで安定化するものもあります。
安定化に関与する力を大別すると「静電反発」と「立体障害」があります。
「静電反発」と「立体障害」についてはこちらの記事で解説しているので是非どうぞ▼

凝集の状態と対策
1.濡れ不良による凝集の状態と対策
凝集の状態
濡れ不良による凝集は下記2点が起こりやすいです。

①浮遊:粒子が溶剤に濡れていかず、空気を大量に含んでいるため浮くことがあります。
②沈降:粒子は大きな凝集体(又は目視で分かるほどの非常に大きい塊)として存在するため、沈降することがあります。
見かけ上濡れていても、②のように空気を含んでいる可能性があります。
この場合、元々凝集体として存在している粒子を解砕できておらず、「凝集したのではなく凝集体のまま」という認識が実態に近いです。
この状態で、粒子分散液を使用しても、目的とする性能は十分に得られません。
濡れ対策
濡れ対策としては下記が挙げられます。
- 界面活性剤の使用(分散剤の使用)
- 機械的解砕
- 溶剤の変更
- 粒子の変更・表面処理
1.界面活性剤の使用(分散剤の使用)
界面活性剤が粒子表面に吸着し、粒子と溶剤の界面張力を下げることで、粒子が濡れやすくなります。
分散剤にも界面活性剤のような効果がある場合もあります。
2.機械的解砕
機械的な力を加えることで、濡れを促進します。
粒子と溶剤が徐々に濡れていく過程で、機械的な力を加えてやると濡れやすくなります。
粒子が完全に濡れていなくても、次の解砕工程に進むことは珍しくありません。
3.溶剤の変更
溶剤に縛りがなければ、表面張力の低い溶剤に変更することで濡れやすくなります。
特に、水から有機溶剤に変更すると格段に濡れやすくなります。
4.粒子の変更・表面処理
粒子に縛りがなければ、溶剤と親和性の高い粒子に変更することで濡れやすくなります。
例えば、酸性官能基の多い酸性カーボンは、中性のカーボンよりも水に濡れやすいです。
可能であれば、使いたい粒子の表面を改質するのも1つの手です。
2.解砕不良による凝集の状態と対策
凝集の状態
解砕不良の状態では、粒子は大きな凝集体として存在するため、沈降することがあります。

元々凝集体として存在している粒子を解砕できていない状態ですので「凝集したのではなく凝集体のまま」という認識が実態に近いです。
この状態で、粒子分散液を使用しても、目的とする性能は十分に得られません。
解砕対策
解砕対策としては下記が挙げられます。
※実際は、再凝集しないように次の「安定化」対策も行う必要があります。
- より大きな力を加える
- より多くの力を加える
- より長い時間、力を加える
1.より大きな力を加える
せん断系の分散では、下記対策が例として挙げられます。
- せん断速度を上げる(回転数を上げる、回転体(ディスパーなら羽)を大きくする等)
- 粘度を高くする
- せん断の隙間を狭くする
衝突系の分散では、下記対策が例として挙げられます。
- 衝突速度を上げる(ビーズミルなら周速、ジェットミルなら噴出速度を上げる)
- 衝突物を重くする(ビーズミルならビーズの材質を変えたり、ビーズ径を大きくしたりする)
キャビテーション系の分散では、「出力を上げる」対策が例として挙げられます。
2.より多くの力を加える
せん断系の分散では、「せん断がかかる面積を増やす」対策が、例として挙げられます。
衝突系の分散では、「ビーズ径を小さくして衝突頻度を増やす」対策が、例として挙げられます。
3.より長い時間、力を加える
解砕の力が弱くても、長時間力を加えることで十分に解砕できる場合もあります。
3.安定化不良による凝集の状態と対策
凝集の状態
安定化不良による凝集は下記2点が起こりやすいです。

①沈降:解砕した粒子が再凝集し、大きな凝集体として存在するため、沈降することがあります。
②増粘、ゲル化:粒子が網目状に凝集し、粘度が上昇したりゲル化することがあります。
網目状の凝集体は、フローキュレートと呼ばれます。
フローキュレートが形成されると、液が増粘しチキソトロピーになります。
チキソトロピーとは、弱い力を加えたときは粘度が高く、強い力を加えたときは粘度が低い状態です。
フローキュレートが強固に形成されると、液がゲル化します。
これらの状態で、粒子分散液を使用しても、目的とする性能は十分に得られません。
ただし、力を加えることで粒子が再び解砕し、目的とする性能を引き出せることもあります。
分散安定化不良により、経時で凝集した場合は、最初の解砕過程よりも弱い力で解砕できることも多々あります。
安定化対策
分散安定化の対策としては下記が挙げられます。
- 適切な分散剤を選定する
- 分散剤の量を増やす
- 適切なpHにする
- 液中の粒子濃度を下げる
- 粘度を上げる
- 粒子の表面処理
- 粒子や溶剤の変更
1.適切な分散剤を選定する
粒子と溶剤に適した分散剤を選定することで、凝集を防ぐことができます。
分散剤の選定方法は、非常に複雑ですので別記事で解説します。
2.分散剤の量を増やす
適切な分散剤を選定しても、量が足りなければ分散安定化の効果は低く、凝集してしまいます。
粒子の表面積が大きい場合や、粒子径が小さい場合は、分散剤が大量に必要になる場合があります。
3.適切なpHにする
水系において、静電反発で粒子を分散する際に有効な場合があります。
pHによって粒子表面の電荷が変わり、電荷の絶対値が大きくなるpHにすれば、静電反発により分散安定化します。
4.液中の粒子濃度を下げる
液中の粒子濃度が高い程、粒子同士が衝突し凝集する確率が高くなります。
分散剤の種類や量が同じでも、液中の粒子濃度を下げるだけで凝集を防げることもあります。
5.粘度を上げる
解砕しても大きい粒子(サブミクロン以上)や比重が大きい粒子は、粘度を上げることで沈降を防げることがあります。
粘度を上げるには、増粘剤を添加したり、液中の粒子濃度を上げたりする方法があります。
「液中の粒子濃度を上げる」方法は、一つ前の対策「3.液中の粒子濃度を下げる」の逆ですが、間違いではありません。
粒子径が小さくて凝集しやすい粒子は「液中の粒子濃度を下げた方良い」場合が多く、沈降しやすい粒子は「液中の粒子濃度を下げた方良い」場合もあれば「液中の粒子濃度を上げた方良い」場合もあります。
6.粒子の表面処理
粒子を酸処理したり、シランカップリング剤などで処理したりすると、
溶剤や分散剤との相性が変わり、分散安定化することがあります。
7.粒子や溶剤の変更
粒子や溶剤に縛りがなければ、分散安定化しやすい粒子や溶剤を選定すべきです。
粒子や溶剤の選定方法は、非常に複雑ですので別記事で解説します。
沈降防止策
大きな粒子は凝集していなくても沈降する場合があります。
沈降の理論と具体的な5つの沈降対策については、こちらの記事で解説しているので是非どうぞ▼
参考文献
分散について学ぶのに役立つおすすめ本は、こちらの記事で紹介しているので是非どうぞ▼

1)小林敏勝・福井寛「きちんと知りたい粒子表面と分散技術」p.7等、日刊工業新聞社(2014)
2)小林敏勝「きちんと知りたい粒子分散液の作り方・使い方」p.36等、日刊工業新聞社(2016)
3)橋本和明監修 顔料技術研究会編「色と顔料の世界」p.234等、三共出版(2017)
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