分散安定化のメカニズムを大別すると、「静電反発」と「立体障害」に分けられます。
コロイド化学では、DLVO理論に基づく「静電反発」による分散が有名ですが、コロイド粒子にも「立体障害」による分散は効果的です。
本記事では、静電反発(DLVO理論)と立体障害の基礎知識や、それらを使い分け粒子の凝集を防ぐ具体的な方法を解説します。
静電反発(DLVO理論)で分散する方法
静電反発による分散とは ※ゼータ電位の解説含む
多くの場合、液中で粒子は下図のように帯電しています。(符号は逆の場合もあり)

粒子には、粒子表面の電荷と反対符号の電荷が集まっており、これを電気二重層と呼びます。
2つの粒子を見たとき、電気二重層の電荷が同じ符号(+と+またはーとー)の場合、反発するというのが静電反発です。
このように電気二重層の静電的な反発力で、粒子の凝集を防ぐのが「静電反発」による分散です。
また、粒子と一緒に移動する電荷の境界部分をすべり面と言い、すべり面の電位は「ゼータ電位」と呼ばれます。
このゼータ電位は測定することができ、非常に重要な指標になります。
基本的に「ゼータ電位」と「分散安定性」には、下記の関係があります
- ゼータ電位の絶対値が大きければ、静電的な反発力が強く、分散安定性は高い
- 逆に、ゼータ電位がゼロに近くなると、静電的な反発力が弱く、分散安定性は低い
よって、ゼータ電位は「粒子の分散安定性と相関の高い指標」として使えます。
DLVO理論とは
「電気二重層による反発力」と「ファンデルワールス力による引力」の比較により、粒子が凝集するか否かを判断する理論のことです。
ファンデルワールス力とは、全ての粒子(分子)に働く弱い引力のことです。
DLVO理論に関する分かりやすい図を引用させていただきます。

この理論によると、粒子間の距離が非常に近いとファンデルワールス力による引力が相対的に強いのですが、それよりも少し遠い距離では静電反発が相対的に強くなります。
上の図で、粒子間距離が少し遠くなると、合成曲線がプラスになることが分かるかと思います。
この少し遠い距離というのは、電気二重層の厚さと関係があり、その時の反発力の大きさはゼータ電位と相関があります。
DLVO理論からも、ゼータ電位は「粒子の分散安定性と相関の高い指標」であると言えます。
静電反発で分散する具体的な方法6選
静電反発で分散する具体的な方法は下記があります。
- pHを変える
- 界面活性剤を使用する
- 粒子を変える・改質する
- 粒子の濃度を下げる
- 凝集体を十分に解砕する
- イオン性物質が系中に存在する場合は、濃度を下げる
1.pHを変える
粒子のゼータ電位は、pHによって大きく変化します。
例えば下図のように、pHによってゼータ電位が変わる場合、pHが6前後の領域では粒子は凝集し易くなります。

pHとゼータ電位の関係は、粒子の種類によって大きく違いますし、粒子表面の水酸基や官能基の量によっても異なります。
pHとゼータ電位の関係は、pHごとにゼータ電位を測定することで分かりますし、pHを変えて粒度分布や沈降具合を見る方法もあります。
ちなみに、ゼータ電位測定機器には、オプションでpHの自動調整機能を付けられることが多く、これを使えば効率的に検討ができます。
2.界面活性剤を使用する
ここで言う界面活性剤とは、粒子に吸着し、粒子のゼータ電位を変える添加剤のことです。
界面活性剤の種類や添加量によって、ゼータ電位は変わりますので、それらを振ってゼータ電位や挙動を見る必要があります。
界面活性剤やその他の分散剤の選定方法については、こちらの記事で解説しているので是非どうぞ▼
3.粒子を変える・改質する
粒子に縛りがなければ、粒子を変えるのも効果的です。
粒子の種類によってゼータ電位が異なるのはもちろんのこと、粒子の表面処理や官能基の種類・量によってもゼータ電位は異なります。
可能であれば、シランカップリング剤などで粒子を処理すると、凝集を抑制できる場合があります。
4.粒子の濃度を下げる
液中の粒子の濃度が高い程、粒子同士が衝突し凝集する確率が高くなります。
粒子の濃度を下げるだけで凝集を抑制できる場合があります。
5.凝集体を十分に解砕する
もともとゼータ電位の高い粒子は、凝集体を十分に解砕してやることで分散安定化する場合があります。
6.イオン性物質が系中に存在する場合は、濃度を下げる
電気二重層の厚さはイオン(塩など)の濃度が上がると薄くなり、粒子は凝集し易くなります。
可能であれば、イオン性物質の濃度を下げるのも手です。
立体障害で分散する方法
立体障害とは
高分子タイプの分散剤(分散樹脂)を粒子に吸着させ、下図のように高分子鎖同士の立体障害効果により、粒子の凝集を防ぐのが「立体障害」による分散です。

実際は、高分子鎖同士が重なった時、浸透圧によって周りから溶剤が流入して反発するという分散機構が多いようですが1)3)、本記事ではこの機構も含めて一般的に良く言われる「立体障害」という言葉を使っています。
立体障害による分散では、分散樹脂が粒子に十分に吸着し、溶剤中に良く広がっていることが重要です。
立体障害で分散する具体的な方法5選
立体障害で分散する具体的な方法は下記があります。
- 適切な分散剤を選定する
- 分散剤の量を増やす
- 粒子の濃度を下げる
- 粒子を変える・改質する
- 溶剤を変える
1.適切な分散剤を選定する
粒子と溶剤に適した分散剤を選定することで、凝集を防ぐことができます。
先にも触れたように、分散樹脂が粒子に十分に吸着し、溶剤中に良く広がっていることが重要です。
そのためには、分散剤と粒子との相性だけでなく、分散剤と溶剤との相性も重要になります。
分散剤の種類や選定方法については、こちらの記事で解説しているので是非どうぞ▼
2.分散剤の量を増やす
適切な分散剤を選定しても、量が足りなければ分散安定化の効果は低く、凝集してしまいます。
粒子の表面積が大きい場合や、粒子径が小さい場合は、分散剤が大量に必要になる場合があります。
3.粒子の濃度を下げる
液中の粒子の濃度が高い程、粒子同士が衝突し凝集する確率が高くなります。
分散剤の種類や量が同じでも、粒子の濃度を下げるだけで凝集を抑制できる場合があります。
4.粒子を変える・改質する
粒子に縛りがなければ、粒子を変えるのも効果的です。
粒子の種類だけでなく、表面状態によっても、吸着し易い分散剤が異なります。
可能であれば、粒子を酸処理したり、シランカップリング剤などで処理したりするのも一つの手段です。
5.溶剤を変える
溶剤に縛りがなければ、溶剤を変えるのも効果的です。
溶剤中で分散剤の分子鎖が広がるか、粒子と分散剤の吸着を阻害しないかが重要です。
(そもそも分散剤が溶剤に溶けるかも重要)
特に無極性溶剤での分散安定化は難しいため、低極性溶剤に変えたり、低極性溶剤を足したりすると分散安定化できる場合があります。
溶剤の選定方法は、非常に複雑ですので別記事で解説します。
静電反発(DLVO理論)と立体障害の使い分け
「静電反発」と「立体障害」を使い分ける際に、まず確認すべきは溶剤の種類です。
それぞれ、下記溶剤に適しています。
静電反発:水系で特に有効です。高極性溶剤でも有効な場合があります。
立体障害:ほぼ全ての溶剤系で有効です。(水系・高極性溶剤だけでなく低極性溶剤でも有効)
次に各分散機構の特徴について説明します。
- 分散剤を入れなくても分散安定化できる場合がある
- pHの調整だけで分散安定化できる場合がある
- 粒子濃度の薄い系で特に有効
- 異種電荷の粒子やイオンがあると凝集しやすい
- 静電反発よりも分散安定性が高い場合が多い
- 粒子濃度の比較的濃い系でも有効
- 低極性溶剤中でも有効
- 立体障害だけでなく静電反発も期待できる分散剤もある
- 分散剤が大量に必要な場合もあり、その後の性能を下げる場合もある
分散剤を入れたくない高極性溶剤系では、静電反発をまず試し、
分散安定化を優先する場合は、立体障害を試すと良いでしょう。
分散剤の種類や選定方法については、こちらの記事で解説しているので是非どうぞ▼
粒子分散の3過程と凝集・沈降対策
本記事で紹介した「静電反発」と「立体障害」について、分散プロセスにおける役割を解説します。
多くの場合、粒子は凝集体(2次粒子)として存在しており、それを下図のように小さくしていきます。
(液中で粒子を合成し、初めから凝集体の少ないコロイド状態の分散液もあります。)

本記事で解説した「静電反発」と「立体障害」は、分散過程の3つ目「安定化」の方法です。
分散過程の前段階である「濡れ」や「解砕」が不十分だと、凝集・沈降が起きたり性能が十分に出なかったりします。
この場合、「安定化」だけでなく、「濡れ」や「解砕」の対策も必要です。
「濡れ」や「解砕」の知識や対策、凝集を防ぐ幅広い方法については、こちらの記事で解説しているので是非どうぞ▼

「沈降する理由」「沈降を防ぐ方法」については、こちらの記事で解説しているので是非どうぞ▼
参考文献
分散について学ぶのに役立つおすすめ本は、こちらの記事で紹介しているので是非どうぞ▼

1)小林敏勝・福井寛「きちんと知りたい粒子表面と分散技術」p.12等、日刊工業新聞社(2014)
2)中道敏彦「図解入門よくわかる顔料分散」p.31等、日刊工業新聞社(2009)
3)小林敏勝「きちんと知りたい粒子分散液の作り方・使い方」p.41等、日刊工業新聞社(2016)
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