粒子分散液がどれぐらい分散しているのか、凝集はないのか気になったことはありませんか。
分散液の作製時に、分散度(分散の進行度)を評価できたら、分散条件(分散液の作製条件)を決めるのに役立ちますよね。
本記事では下記が分かります。
- 分散と分散度の基礎知識
- 激選した5つの分散度測定方法とそれらのメリット・デメリット
分散度とは
分散度測定の前提知識として、分散について説明します。
粒子は多くの場合、凝集体(2次粒子)として存在しており、2次粒子を構成する最小単位を1次粒子と言います。

この凝集体 (2次粒子) を、目的の粒子径(例えば1次粒子径)まで解砕し安定化させることを「分散」と言います。

分散度とは、「分散の進行度」の事であり、どれだけ凝集体を解砕し安定化できているかを表します。
また、分散液中の平均粒子径のことを分散粒子径と言い、分散度が高い程、分散粒子径が低いという関係があります。

ちなみに、分散度と分散時間は一致しないことが多いです。
例えば、分散時間と分散粒子径の関係は下記のようになる場合が多いです。

上記はあくまで例であり、分散時間を長くし過ぎると逆に凝集し、分散粒子径が大きくなる場合もあります。
また、「分散度=分散時間」という考え方もありますので、分散度と聞いた時にそれが何を表しているのかは確認が必要です。
本ブログでは、下記定義で話を進めます。
分散の進行度のことであり、「分散度が高い=分散粒子径が小さくなっている」ということ
ちなみに、粒子が異なる場合、分散粒子径で分散度の比較をしてはいけません。
下記のように、「分散粒子径は大きいが分散度は高い状態」と「分散粒子径は小さいが分散度は低い状態」を比べてしまう可能性があるためです。

分散度は「分散液単体の分散の進行度を見る」又は「同一粒子の分散液の比較」に使えます。
分散度の測定方法
分散度の測定方法を大別すると、「液のまま測定する方法」と「塗工物にして測定する方法」があります。
全体像をまとめると下記のようになります。

液のまま測定する方法は、比較的簡便なものが多く、分散度との相関が確認できればお勧めの方法となります。
塗工物で測定する方法は、塗工の手間はありますが、液のまま測定するよりも実態を良く表している場合が多くお勧めです。
具体的な測定方法によってメリット・デメリットが異なりますので、代表的な5つの測定について詳細を順番に解説していきます。
1.粒度分布
- 簡単に短時間で測定可能
- 粒子径の分布が分かる
- 希釈によって、分散粒子径が変化する可能性がある
良く行われる方法で、分散度の測定方法は「粒度分布の測定」という方も多いのではないでしょうか。
この方法のデメリットとしては、粒度分布を測るために希釈した際に、分散粒子径が変化する場合があるということです。
この現象は珍しくなく、希釈時に凝集が起こることを「シンニングショック」と言います。
シンニングショックが起きると、実際は分散度が上がっていても粒度分布は変わらないという測定結果が出たり、実際は分散度が上がっているのに粒度分布は逆に大きい値が出たりします。
また、1次粒子径の大きさによっても、粒度分布の特性は異なります。
- 希釈によって、分散粒子径が変化する可能性は低い
- 粒子の沈降が起き易く、動的光散乱やレーザー回折が原理の粒度分布計の場合は、循環式でないと結果がブレる
- 希釈によって、分散粒子径が変化する可能性が比較的高い
上記の間の特性。粒子や分散液の種類によって大きく異なる。
上記はあくまで目安であり、粒子の種類や分散機構によっても異なります。
特に小さい粒子では、 粒度分布が間違っている可能性も考慮し、他の分散度測定も行うべきかと思います。
2.グラインドゲージ(粒ゲージ)
- 非常に簡単、短時間で測定可能
- 測定できる分散粒子径は、数μm以上
- 粒度分布が広い場合、裾部分の大きい分散粒子径しか分からない
- 粒度分布がふた山の場合、大きい方の結果しか分からない
グラインドゲージは下図のような「深さが減っていく溝」を有する器具です。
液を溝に垂らし、溝に沿って液を引いていくと、深さに応じた粒子の跡が見えるという評価方法です。

分散液の希釈が必要ないため、「粒度分布計のように希釈による分散粒子径の変化」を考慮しなくても良いというメリットがあります。
しかし、上記の図のように粒子径に分布がある場合、大きい粒子しか測定できませんので、 他の分散度測定も行うべきかと思います。
ちなみに、グラインドゲージの番手により測定できる粒子径の範囲が違い、測定上限の1/10程度が測定下限です。
粒子径としては数µm程度が測定下限ですが、例えば「1次粒子径が0.1μmでも凝集体は100μm以上の大きさ」ということは分散初期では珍しくありません。
そのため、分散初期の分散度を見るのに特におすすめです。
他の装置と比べると、器具自体が安価で始めやすいという特徴もあります。
Amazonや楽天でも購入できるレベルです。
3.粘度
- 簡単に短時間で測定可能
- 分散度と相関があるとは限らない
簡単に測定可能ですが、分散度と相関があるとは限らないため、他の分散度測定と併用すると良いでしょう。
粘度計には様々なタイプがありますが、せん断速度を変えられるものがお勧めです。
連続的にせん断速度を変えられるレオメーターでも構いません。
例えば、回転式粘度計の場合、回転速度が速い時を「高せん断」、 回転速度が遅い時を「低せん断」 と言います。
その時の粘度が「高せん断」<「低せん断」の場合、その粘度の性質はチキソトロピー(チキソ、チクソ)と言います。
特にチキソトロピーな分散液の場合、分散度の上昇と共に粘度が低下することが多いです。
これは、分散の進行とともに分散剤が粒子に吸着し、チキソトロピー性を発現させる粒子同士の相互作用を防ぐためです。
ただし、分散剤が不足している場合は、分散し過ぎると逆に粘度が上昇したりします。
また、濡れにくい粒子の場合は、濡れる過程で粘度が上がり、分散剤の吸着が進むと粘度が下がるということがあります。
このように、粘度情報は分散状態を考察するのに役立つため、他の分散度測定と共に粘度を測定することをお勧めします。
4.光沢
- 分散度と相関がある可能性が高い
- 塗工物を作るのがやや面倒
- 塗工物の組成を一定にしないと光沢の比較はできない
- 参考になる分散粒子径は、0.2μm以上
分散液にバインダー樹脂を加え、塗工・乾燥し、塗工物の光沢を測定する方法で、本記事の一押しの分散度測定方法です。
(バインダー樹脂を含む分散液の場合は、そのまま塗工・乾燥し測定できる場合もあります。)
最終的に塗工物を作製し、各種特性を見る場合は合わせて「光沢」を見ると分散度も評価できます。
塗工物を作る予定がない場合も、ひと手間かけて塗工物を作る価値はあります。
下図のように分散度によって、塗工物の表面は凹凸具合(平滑性)が違います。

光沢は平滑性と相関があるため、分散度の評価として光沢を利用することができます。
ただし、粒子や樹脂の種類・配合比によっても光沢は変わりますので、光沢を比較する際は同じ組成にする必要があります。
粒度分布で測りにくい分散液やシンニングショックが起きやすい分散液も測定できます。
なお、分散粒子径が小さい領域では光沢にほとんど差が出ないため、あまり参考になりません。
目安としては、分散粒子径0.2μm以上のとき光沢が参考になります。
ただし、例えば「1次粒子径が0.05μmでも分散粒子径は0.3μm」ということは珍しくなく、実際はナノサイズの粒子の分散液にも適用できる場合があります。
光沢測定装置は定置の物からハンディタイプまであり、性能や価格帯も幅広いのですが、比較的安価で始めやすい機器もあります。
5.隠ぺい性
- 分散度と相関がある可能性が高く、0.2μm以下の小さい粒子とも相関がある
- 隠ぺい率試験紙を使えば、特別な測定装置は必要ない
- 塗工物を作るのがやや面倒
- 塗工物の組成と厚みを一定にしないと隠ぺい性の比較はできない
分散液にバインダー樹脂や溶剤を加え、塗工・乾燥し、塗工物の隠ぺい性を測定する方法です。
隠ぺい性とは、下地を隠す性質のことです。
隠ぺい性と分散粒子径の間には、下のグラフのような相関関係があります。

隠ぺい性は、可視光の半波長辺り(0.2~0.4μm程度)で最大になります。
この傾向自体は粒子の種類によりませんが、隠ぺい性の大小は粒子の種類によって異なります。(グラフの形はそのままで値は上下するイメージ)
そのため、粒子の種類が違う塗工物の分散度の比較はできません。
また、塗工物の厚みや塗工物中の粒子濃度によって隠ぺい性は変わりますので、隠ぺい性を比較する際は同じ組成と厚みにする必要があります。
隠ぺい性の測定は、ガラスや透明なフィルムに塗工し透過率を測定する方法と、隠ぺい率試験紙を使う方法があります。
隠ぺい率試験紙を使用した例を引用すると下記のようになります。

写真のように、白黒の紙の上にサンプルを塗工し、下地が隠れている(白黒のコントラストが小さい)ほどの隠ぺい性が高いと判断します。上の写真だと、右に行くほど隠ぺい性は高いと言えます。
比較したい液を1枚の基材に同時に塗工すれば、塗工物が隣り合い、隠ぺい性の比較を目視で行い易くなります。
まとめ
分散度とは、「分散の進行度」の事であり、どれだけ凝集体を解砕し安定化できているかを表します。
また、分散液中の平均粒子径のことを分散粒子径と言い、分散度が高い程、分散粒子径が低いという関係があります。

分散度の測定方法を大別すると、「液のまま測定する方法」と「塗工物にして測定する方法」があります。
全体像をまとめると下記のようになります。

液のまま測定する方法は簡単ですが、過信は禁物です。
特に粒度分布計による測定は、 希釈時に分散粒子径が変化することが珍しくありません。
複数の測定を併せて行うことで、より正確に分散度を測定し、分散条件を最適化できるようになります。
分散条件を最適化するための「粒子の具体的な分散方法」についてはこちらの記事で詳しく解説しているので是非どうぞ▼
参考文献
分散について学ぶのに役立つおすすめ本は、こちらの記事で紹介しているので是非どうぞ▼

1)中道敏彦「図解入門よくわかる顔料分散」p.70等、日刊工業新聞社(2009)
2)橋本和明監修 顔料技術協会編「色と顔料の世界」p.243等、三共出版(2017)
3) 小林敏勝「きちんと知りたい粒子分散液の作り方・使い方」p.174等、日刊工業新聞社(2016)
4)小林敏勝・福井寛「きちんと知りたい粒子表面と分散技術」p.92等、日刊工業新聞社(2014)
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