比表面積と粒子径の関係が分からなくてモヤモヤしていませんか?
また、比表面積から粒子径を算出できたら便利だなと思ったことはありませんか。
この記事を見れば、比表面積から粒子径を算出する方法だけでなく、この理論の問題点や、他の「粒子径の測定方法」などが分かります。
比表面積と粒子径の関係式
比表面積と粒子径には下記の関係式があります。

この式に比表面積と密度を代入すれば、粒子径を算出できます。
(密度はネット検索でも調べられます)
上記の式は粒子1個についてではなく、重量あたりの粒子と比表面積の関係を表した式です。
粒子一個について見れば、粒子径が小さい程比表面積も小さくなりますが、
重量あたりの粒子について見ると、粒子径が小さい程、粒子の数が増えるため比表面積は大きくなります。
ちなみに、式の単位が左右で合っていないように見えますが、下記のように変換できるため、上述の一般的な単位のままで大丈夫です。

上記式の関係をグラフにすると下記になります。

縦軸も横軸も対数目盛ですので、直線に見えますが、比表面積と粒子径は反比例の関係です。
これらの関係式やグラフを使えば、比表面積から粒子径を算出できますが、下記の問題点があります。
実際の粒子では、関係式(D=6/Sρ)が成立しないことが多い
実際の粒子は、真球ではなく、下図のように表面に凹凸や細孔などがあるためです。

さらに、実際は粒子径に分布があり、小さい粒子の存在は粒子全体の比表面積を大きくします。
そのため、比表面積から粒子径を算出する方法は不正確な場合がほとんどですが、補助的な使用は可能です。
例えば、比表面積から算出した粒子径は「粒子径の下限値」になります。
下のグラフのように、比表面積が10 m2/g、密度が2 cm3/gの場合、粒子径は0.3µm以上であることが分かります。

凹凸や細孔などにより比表面積が増えることは合っても、真球よりも比表面積が減ることはないため、比表面積から算出した粒子径は「粒子径の下限値」になります。
また、他の粒子径測定方法との比較や補助資料として、比表面積から求めた粒子径を活用するのは有効です。
他の粒子径測定方法については次の項で説明します。
基本的に、粒子径は比表面積とは別に測定が必要とお考え下さい。
粒子径の測定方法4選
粒子径測定の前提知識として、粒子の種類について説明します。
粒子は通常、凝集体(2次粒子)として存在しており、下図のように、2次粒子を構成する単位粒子を1次粒子と言います。

粒子径の測定方法には、1次粒子径の測定に適しているものと、2次粒子径(分散粒子径)の測定に適しているものがありますので、それぞれ解説していきます。
なお、粒子径の測定と、分散度(分散の進行度)の測定は必ずしも一致しません。本記事は「粒子径の測定」についてです。
分散度の測定についてはこちらの記事で解説しているので是非どうぞ▼

ちなみに、凝集体を解砕していき、目的の粒子径(例えば1次粒子径)で安定化させることを「分散」と言います。
分散の基礎・分散過程についてはこちらの記事で解説しているので是非どうぞ▼

1.粒度分布計(動的光散乱・レーザー回折など)
粒子径の分布を簡単に測定できます。
装置によりますが、粒子分散液のような液体だけでなく、粉も測定できます。
問題点は下記です。
- 測定できるのは、2次粒子径(凝集体の粒子径)であることが多い
- 希釈によって、2次粒子径(凝集体の粒子径)が変化する可能性がある
1次粒子径の大きさによって、粒度分布の特性や信頼性は異なります。
- 簡単に凝集がほぐれるため、測定結果の粒度分布は、1次粒子径を表していることが多い
(湿式で測定する場合は、粒子が沈降しないように循環式の粒度分布計が必要です) - 希釈によって、2次粒子径(凝集体の粒子径)が変化する可能性は低く、信頼性は比較的高い
- 測定結果の粒度分布は、2次粒子径(凝集体の粒子径)を表していることが多い
- 希釈によって、2次粒子径(凝集体の粒子径)が変化する可能性があり、信頼性は高くない
→粒度分布が間違っている可能性も考慮し、他の測定や実験で信頼性を確認すべき
上記の間の特性・信頼性。粒子や分散液の種類によって大きく異なる。
上記はあくまで目安であり、粒子の種類や分散機構によっても異なります。
特に小さい粒子では、希釈により粒度が変わっている可能性がありますので、粒度分布の評価結果を信じ過ぎないようご注意ください。
2.グラインドゲージ(粒ゲージ)
粒子分散液の粒度を測る方法として、最も簡単な方法です。
グラインドゲージは下図のような「深さが減っていく溝」を有する器具です。
液を溝に垂らし、溝に沿って液を引いていくと、深さに応じた粒子の跡が見えるという評価方法です。

分散液の希釈が必要ないため、「粒度分布のような希釈による粒度の変化」を考慮しなくても良いというメリットがあります。
問題点は下記です。
- 粒度分布は測定できない
- 粗大粒子の影響を拾ってしまい、メインの粒度とは異なる場合がある
他の装置と比べると、器具自体が安価で始めやすいという特徴もあります。
Amazonや楽天でも購入できるレベルです。
3.電子顕微鏡(SEM)
特に、1次粒子の測定に適しています。
粉の測定だけでなく、希釈した液を乾燥して測定することも可能です。
問題点は下記です。
- 液の希釈&乾燥によって、2次粒子径(凝集体の粒子径)が変化する可能性がある
- 局所的な粒子径を表しており、全体の粒度分布を出すのは非常に手間がかかる
4.マイクロスコープ(デジタル顕微鏡)、光学顕微鏡
光学・デジタル技術の発展により、SEMに迫る高倍率での観察が可能になってきています。
超高性能なマイクロスコープなら、マイクロオーダーの粒子を綺麗に測定できますし、サブミクロンオーダーの粒子も測定できる可能性があります。
例えば、キーエンスのマイクロスコープは6000倍という高倍率での観察が可能です。
SEMより手軽に測定できますし、液体や絶縁物も未処理で測定が可能です。
ただし、液で見る場合は希釈が必要な場合があります。
問題点は下記です。
- サブミクロン未満の粒子径の測定は難しい
- 液の希釈や乾燥によって、2次粒子径(凝集体の粒子径)が変化する可能性がある
- 局所的な粒子径を表しており、全体の粒度分布を出すのは手間がかかる
参考文献
分散について学ぶのに役立つおすすめ本は、こちらの記事で紹介しているので是非どうぞ▼

1)小林敏勝「きちんと知りたい粒子分散液の作り方・使い方」p.20等、日刊工業新聞社(2016)
2)中道敏彦「図解入門よくわかる顔料分散」p.71等、日刊工業新聞社(2009)
3)小林敏勝・福井寛「きちんと知りたい粒子表面と分散技術」p.30等、日刊工業新聞社(2014)
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