樹脂の特性を向上させたり、機能性を付与したりする際、フィラーの添加が有効だと聞いたことはありませんか?
機能性樹脂を開発する際、樹脂自体の性能向上だけを追い求めていませんか?
樹脂とフィラーを組み合わせることで、樹脂だけでは得られなかった高い特性を、比較的簡単に得られる場合があります。
本記事では、フィラーの添加で得られるメリットや、フィラーの種類、フィラーを樹脂に分散させる具体的な方法を解説します。
※樹脂とフィラーは、適切に混ぜないと上手く性能が向上しませんので、最後にコツも紹介します!
なお、樹脂にフィラーを混ぜた材料は「ポリマーコンポジット」「高分子複合材料」「機能性樹脂」などと呼ばれることがあります。
正確には、これらの言葉は上位概念であり、その中に「樹脂×フィラーの複合材料」が入ります。
本記事では、「機能性樹脂」という言葉を使いますが、 「樹脂×フィラーの複合材料」のことです。
代表例としては、CFRP(Carbon Fiber Reinforced Plastics, 炭素繊維強化プラスチック)が挙げられます。
これは、炭素繊維というフィラーを樹脂と組み合わせて、強度などを向上させた例ですね!
フィラー添加の目的(用途・メリット)|機能性樹脂の用途
樹脂にフィラーを添加する目的は多岐に渡り、代表例を挙げると下記になります。

※画像が見にくい方のために、テキストでもまとめておきます
- コスト低減(増量目的)
- 加工性の改善
- 物性の向上、機能性の付与
機械物性:強度(静的)、耐衝撃性、耐摩耗性、クリープ特性、防振・制振性
熱:耐熱性、難燃性、熱伝導性、熱膨張性
光:光触媒、紫外線(UV)カット、赤外線(IR)カット、反射・散乱・屈折率調整、遮光性
電気・磁気:導電性、圧電性、誘電特性、磁性、電磁波シールド性
水:吸水性、脱水性、透湿性・防湿性
その他:意匠性、ガスバリア性、防音・遮音性、摺動性、抗菌
樹脂に求める特性として、上記が一つも当てはまらないという方はいないでしょう。
それほどに、フィラーで向上できる特性は多いのです。
本記事では、3の「物性の向上、機能性の付与」を目的として、樹脂とフィラーを組み合わせる方法を詳しく解説していきます。
フィラーの種類
樹脂の特性を向上させるフィラーには何があるのか、種類・形状・大きさという観点で解説します。
用途別フィラーの種類
用途別にフィラーを挙げた例を引用させていただきます。

用途も多いですが、フィラーの種類も非常に多くあります。
「ご自身の求めている特性 フィラー」と検索すると、適したフィラーの例が山ほど出てきます。
フィラーの形状
機能性樹脂の特性には、フィラーの種類だけでなく、形状も関係があります。
フィラーを形状毎に分類すると、下記のようになります。
- 球形
- 針状、棒状、繊維状
- 板状、薄片状、フレーク状
- 無定形、不定形
※他にも、立方状、紡錘状など様々な形状があります

基本的には、求める特性を向上させるのに適した形状を選びます。
例えば、強度向上には繊維状フィラーが適していますし、ガスバリアには板状フィラーが適しています。
フィラーの形状は、フィラーの種類や製造方法によって異なります。
フィラーにより、結晶構造の影響を強く受ける物、製造方法の影響を強く受ける物、2次加工により形状が制御される物など、様々です。
例えば、カーボンという広い括りで、フィラーの形状を見てみると、
- 天然の黒鉛の中には、結晶構造の影響を強く受けた板状(鱗状)の黒鉛がある
- 2次加工により、球状にした黒鉛がある
- ファーネス法によって製造されたカーボンブラックは、無定形(数珠状)である
- 樹脂繊維を炭化させた、マクロレベルで繊維状のカーボン(炭素繊維)がある
- カーボンナノチューブに代表されるように、ミクロレベルで繊維状のカーボンがある
というように様々です。
フィラーの大きさ(粒子径)
フィラーの種類や形状に加え、大きさ(粒子径)も機能性樹脂の特性に影響します。
フィラーを大きさ毎に分類すると、下記のようになります。
- ナノフィラー:数百nm以下
- ミクロフィラー:数百nm~10µm弱
- マクロフィラー:10µm弱以上
上記はあくまで目安で明確な定義はありません。(業界・会社・部署・人によって違う)
フィラーの形状も球形とは限りませんので、針状や板状の粒径をどう考えるかという議論にもなってきますよね。
基本的には、求める特性を向上させるのに適した大きさのフィラーを選びます。
しかし、特にナノフィラーは扱いが難しく、機能性樹脂の作り方によっては上手く性能を引き出せない場合も多々あります。
この場合は、ミクロフィラーを選んだ方が、結果的に性能が出ることも珍しくありません。
補足:アスペクト比の重要性
針状(棒状、繊維状)や板状(薄片状、フレーク状)のフィラーには、アスペクト比という考え方があります。
アスペクト比=長径/短径
例えば、針の長さが10µm、細さが2µmの針状フィラーのアスペクト比は、10/2=5です。
アスペクト比が高い程、重量当たりの表面積が増え、凝集し易くなります。つまり、使いこなしが難しくなります。
一方で、上手く使いこなせば、アスペクト比が高い程、特性が高くなる場合が多々あります。
他にも、アスペクト比が高いと、フィラーの分散体(樹脂との混合物など)の粘度が高くなったり、樹脂に入れられるフィラーの上限量が減ったりします。
機能性樹脂の作り方5選(樹脂とフィラーを組み合わせる方法)
樹脂とフィラーを組み合わせて、機能性樹脂を作る方法は、大きく分けて3つ、細かく分けて5つあります。

それぞれメリットやデメリットがありますので、詳しく解説していきます。
1.溶融混練(熱可塑性樹脂使用)
「樹脂中で分散させる方法」の1つ目です。
- 生産性が高い
- 適用できる樹脂が限られている
機能性樹脂の作製で最も一般的な方法で、樹脂とフィラーを組み合わせると聞くと、この方法をイメージされる方が多いかもしれません。
樹脂に熱をかけて柔らかくし、フィラーを練りこむ方法です。
生産機にもよりますが、後で解説する他の方法と比べると、生産性が高いというメリットがあります。
デメリットは、適用できる樹脂が限られているという点です。
機械に適した溶融温度範囲の熱可塑性樹脂しか使えません。
ちなみに、この方法で樹脂にフィラーを混ぜた物は、それ自体が最終製品の物と、後で別の樹脂と混ぜる物があります。
前者はコンパウンド、後者はマスターバッチと呼ばれます。
マスターバッチは、コンパウンドに比べ、フィラーを高濃度に練り込みます。
樹脂とフィラーを直接混ぜてコンパウンドを作るより、樹脂とマスターバッチを混ぜてコンパウンドを作る方が、効率的で特性も向上する場合があるためです。
2.液状樹脂中で分散(可塑剤など使用)
「樹脂中で分散させる方法」の2つ目です。
- 生産性が高い
- 適用できる樹脂が限られている
- 液状樹脂成分が、物性を下げる要因になる場合がある
室温で液体の樹脂中に、フィラーを分散させる方法です。
樹脂中で分散するため、後で解説する他の方法と比べると、生産性が高いというメリットがあります。
この方法で作製した「樹脂×フィラーの複合材料」は、他の樹脂と混ぜて、最終製品(機能性樹脂)になります。
そのため、室温付近で液体という必須項目の他に、他の樹脂との相性も求められます。
さらに、この方法の要となる「液状樹脂」は、機能性樹脂の物性を下げることもあります。
一方、液体のため、粘度の低い液体にしか使えない分散機が適用できたり、他の樹脂と混ざりやすかったりとメリットも多くあります。
3.ワニス中で分散(溶剤+樹脂)
「溶剤中で分散させる方法」の1つ目です。
- 適用できる樹脂の範囲が広い
- 生産性が高くはない
ワニス(樹脂が溶剤に溶けた状態)に対して、フィラーを分散させる方法です。
合成後にワニス状態の物や、樹脂を使う際にワニス状態にする物は、この方法が効率的な場合があります。
ワニス中でフィラーを分散する方法は、適用できる樹脂が多い点が魅力で、上で挙げた熱可塑性樹脂にも適用できますし、工夫することで熱硬化性樹脂にも適用できます。
また、モノマーや中間体にも適用できる可能性があります。
どの溶剤にも溶けないという樹脂以外は、工夫次第で大体適用可能です。
しかし、溶剤を足せば足すほど、分散効率・生産性は落ちるでしょう。
4.溶剤中で分散(溶剤のみ)
「溶剤中で分散させる方法」の2つ目です。
- 適用できる樹脂の範囲が広い
- 生産性が高くはない
- 樹脂と混ぜる際に、分散が崩れる可能性がある
溶剤にフィラーを分散し、後で樹脂をいれたり、ワニスと混ぜたりする方法です。
そうすることで、フィラーを効率的に分散でき、生産性が高まります。
デメリットとして、後で樹脂やワニスと混ぜた際に、フィラーが凝集する可能性があります。
溶剤にフィラーを分散させた「分散液」の使い方、凝集を防ぐ方法ついては、こちらの記事で解説しているので是非どうぞ▼
5.フィラー基材に樹脂含浸
- 生産性が高い
- 適用できるフィラーの種類や形状が限られている
フィラーで構築された基材・膜・プレートに、樹脂を含浸させて、機能性樹脂を作る方法です。
フィラーを樹脂に分散させるのではなく、フィラーマトリックス中の隙間を樹脂で埋めるイメージです。
フィラーを分散させる工程が要らないため、生産性は高めです。
一方、使えるフィラーの種類や形状はかなり限定されます。
ちなみに、フィラーとは充填剤のことですので、この方法で使われるフィラーは、あまりフィラーと呼ばれません。
しかし、機能性樹脂を作る上では絶対に知っておいた方が良い製法です。
なお、含浸させる樹脂に、細かいフィラーを分散させておくことで、特性をさらに向上させることも可能です。
機能性樹脂作製の注意点・性能を向上させるコツ
機能性樹脂を作製する際の注意点として、下記2点が挙げられます。
- フィラーの凝集を防ぐ
→フィラーが凝集している場合、フィラーの持つ特性を充分に発揮できません。 - フィラーと樹脂の界面を良好にする
→フィラーと樹脂の親和性が低い場合、フィラーと樹脂の界面剥離が起きやすくなります。
1.フィラーの凝集を防ぐ
「フィラーの凝集を防ぐ」ためには、適切な分散機や分散条件を構築する必要があります。
本ブログで情報発信している分散方法は、主に溶剤中で分散する方法です。
特にナノフィラーの分散は難易度が高いため、樹脂中分散より溶剤中分散がおすすめです。
溶剤中でフィラーを分散する具体的な方法については、こちらの記事で解説しているので是非どうぞ▼
近年、あらゆるアプリケーションで小型化・薄膜化・高性能化が求められており、機能性樹脂ではナノフィラーの活用が進んでいます。
これまで、溶融混練で対応してきた樹脂も、あえて溶剤に溶かしナノフィラーを分散させることも可能ですし、
もともと溶剤に溶けている樹脂は、分散条件を最適化することでナノフィラーの特性を最大限に引き出すことが可能です。
これからの時代、樹脂開発は「フィラー分散」とセットで行うことが益々重要になるのではないでしょうか。
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2.フィラーと樹脂の界面を良好にする
「フィラーと樹脂の界面を良好にする」ためには、フィラー表面の改質が必要で、樹脂と親和性の高い分散剤をフィラー表面に吸着させる方法や、フィラーの表面をシランカップリング剤などで改質する方法があります。
シランカップリング剤などによるフィラーの表面改質では、フィラーの官能基(OH基など)とカップリング剤が化学結合することで、樹脂と親和性の高い官能基や、「樹脂と化学結合する官能基」が導入されます。
分散剤によるフィラーの表面処理は物理吸着、シランカップリング剤によるフィラーの表面改質は化学結合と呼ばれます。
樹脂とフィラーの界面を良好にするためには、「樹脂と化学結合する官能基」をフィラーに付けるのが一番ですが、この方法は適用できるフィラーや樹脂が限定されます。
フィラーにはOH基などが必要ですし、樹脂には反応前の官能基が必要になります。
シランカップリング剤については、こちらのサイト(カタログ)が非常に参考になりますので是非ご覧ください。
シランカップリング剤などが使えないフィラーの場合は、分散剤を利用し、樹脂との親和性を高めることで、機能性樹脂の性能向上に繋がる場合があります。
参考文献
1)由井浩「ポリマー系複合材料」p24等、プラスチックス・エージ(2005)
2)中道敏彦「図解入門よくわかる顔料分散」p12等、日刊工業新聞社(2009)
分散について学ぶのに役立つおすすめ本は、こちらの記事で紹介しているので是非どうぞ▼

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